有馬総一郎のブログ

(彼氏の事情)

2011年03月27日 23:16:00 JST - 6 minute read - Music

無垢で真っ白な音盤、理想を抱いてキュン死しろ!

発売して暫く経って今更だが、タイナカ彩智の「innocent」の感想でも書く。

タイナカ彩智 innocent
mp3販売なら2000円で買える

まあ、発売当時はamazonレビューの数が少なかったのでちょっと心配したが、まずはコメントが付いてる事にホッとした。売り上げ自体はやっぱり下がったみたいだが…

まず聴いて思ったのは音数が少なく、全体的にオーガニックな感じ。前作の「Destiny」が電子音など入った如何にもプロデュースされた音が詰まったアルバムだったので違いは大きい。耳糞たまった自分の耳からすると音のそのものも、ギラついた、磨かれたサウンドから、少し引っ込んだ、控えめな印象がする。一発録りという録音形式もあるのか分からないが…

また、彼女自身が自分の歌い方の癖を取り除いたと言っているとおり、赤ちゃんが泣きじゃくるときに出す「ヒック」といった泣き声に近い張った高音が、抜けるような出し方になっており、キンキンした感じが無くなっている。歌のレンジ自体もいつもより低め。

タイナカサチ Dear
個人的には"独り占めしたい"だけでも聴いて欲しい

また、“どぉぉぉぉん"といった鼻にかける歌い方も減った。個人的には彼女の緊迫感のある高音が切なげに聴こえて好きだったし、鼻にかけた声は大好物だったんだけどね。

ただ、去年のベストライブ東京公演やベスト盤のDVDを見た方はなんとなく分かって頂けるだろうが、今まので歌い方は相当喉に負担が大きかったのか、彼女自身、キツそうに歌っている場面(“抜け殻"とかヤバかった)が多くなってきていた。そういうのを考えると、良い判断かな。癖=個性ととるか、欠点ととるか微妙なところではあるけどね。

収録曲、特にPOPな楽曲に関しては広沢タダシのセンス、プロデュースで助けられた物が大きい。正直"ペンギン"とかは25歳にもなるのに、こんな曲いつまでも唄いづつける気なのかな?と首をかしげてしまうけど、オープニングのSE的な役割の"CLOSE"に続く実質一発目の掴みとしては悪くない。

高井城治の歪ませない落ち着いたトーンのギターとか、ライブでも見せてくれるように繊細なプレイを聴かせてくれる。ハッキリ言って凡庸なPOPソングと思える"tell me love"は、ライブで聴くより良いぐらい。コーラス部で演奏陣が一斉に入ってくるので浮揚感があって心地良い。

素人耳には演奏陣はプレイ、フレーズにしても、もっと自己主張しても良いんじゃないのか?とか思うけど、音と同様にソリッドでピュアなサポートってところか。

“shadow"は今までになかったタイナカ彩智の新境地といったこのアルバム唯一のロックテイストの曲で、個人的には"innocent"と並んでこのアルバムのフェイバリットソング。

タイナカサチ Love is…
“Visit of love”、“Lipstick”、“愛しい人へ"などライブ定番曲が一番多く収録されたアルバム

それだけに、“コックのポルカ"はなんでここに!?といった違和感を覚える。あと、1分半にも満たない曲だけど、それでも長く感じる。一回目は物珍しさもあって聴けるけど何度も聴く上では、邪魔。私はいつも飛ばす。二番は現在のタイナカ彩智が唄うとかにすれば良かったでは?

そして、ラストの"innocent"は彼女らしいバラード。この曲は「今までの飾っただけの言葉を並べるのやめて、本当に内から発する言葉で書いた曲」みたいなことを、彼女のMCで言っていたと記憶している。確かに「罪なんてない 愛することに」といった歌詞に表されるように不倫、略奪愛といった背徳の匂いがする。

それだけに"shadow"に繋げればいいのに…とか思った。一曲として聴いても今までの切な系でも一位二位を争う珠玉のバラードとなっている。それだけに最後の要らねーOutroが蛇足。せめてトラック分けて…

まあ、あとアルバム全体として多分メジャーだったら録音しなおしているだろうな、みたいな所がチラッとある。自分もライブとかでは気にならないけど、こういうスタジオでレコーディングしたものとしては気にならなくもない。

全体してみれば、今までのアルバムと比べて遜色ない。楽曲の粒も揃っているし、今までの彼女らしさっていうのがまるっきりなくなったわけでもない。収録時間も短く、音の洪水のような産業POPに聞き疲れた耳には癒される。

後半の二曲以外は明るい前向きな楽曲だし聴きやすい。それだけに気軽にリピートしたくなる。ライブで少しずつ発表されたのもあるし、今まで以上に早く曲一つ一つの判別が付いた。

タイナカサチ Destiny
外部ライター提供曲が多いが、その分演奏、楽曲など濃い

懸念されるのは、パッと軽く聴き流された場合、彼女のキャラクターもあり、悩みも何もない底抜けに明るいおバカなアルバムに思われないか?ということ。ゲスト参加したコトリンゴが「ピュアすぎて、汚れきった私なんかが触れないアルバム」とか"ワンダーランド"があまりにも白馬の王子様を恋焦がれる内容だったために「怖い」と言ったことがまさに示している。

彼女自身はそれこそ今までにいろんな苦い思いや傷を負ってきただろうが、強いゆえに表に全く出さない、見せない。ライブなどで無邪気に踊っている姿などを見て癒されるおじさま、お兄様も多かろう。“ペンギン”、“Happy Song"だの歌うそんな彼女を、男性はともかく女性が表立って「FANです!!!」とはそりゃ言いづらかろう。

今回のアルバムは"innocent"の歌詞のように今までのただ前向きだけじゃない、傷や闇の部分も見せた楽曲が増えるのかなーと思ったら、後半二曲ぐらいで他は今までの書いてきたタイナカ彩智の歌詞と大差ない。個人的には"最高の片想い"とか片思いに最高もないだろ、恋・愛は成立してなんぼだと思ってしまう。“好きだよ"とか同じ路線なんで歌詞がイマイチ。

時期が時期だけに、こうしたポシティブな曲のほうが好まれる可能性があるだろうが、もっと弱さを見せていいし、もっと陰を含ませたほうが女性ファンは増えるのでは?と私は思う。明暗の配合をちょっと変えたほうがいいというか。

個人的な感想としてはそんなモノ。今までのアルバムも私は気に入っているし、特にサードアルバムの楽曲の充実ぶりでは今回のアルバムに匹敵する、前の方が良かった部分もあるので一概に今まの最高傑作とは言わないが、窓口としては今まで以上に広がった感触はある。アニメ臭も消えたしね。次作はもっと彼女の内面に一歩踏み出して欲しいかな。